私が小学校1〜2年の時、生まれて初めて買ったシングルが沢田研二の「勝手にしやがれ」だったのですが、その沢田研二があるインタヴューで、無人島に一枚持っていくレコードについて聞かれ、「一枚は無理だから二枚選ぶとして、ストーンズのスティッキー・フィンガーズとメインストリートのならず者」と答えていました。またそのストーンズのキース・リチャードが同じ質問を受け、彼はレコードの変わりにテープ一本、と前置きした上で、朝はモーツアルトで目覚め、昼間はチャック・ベリーで作業をし、夕暮れはジャズ・ジラム(key
to the highwayの原奏者)のブルースで酒を飲み、夜はJAZZを聴けるようにテープを編集しておく、と答えていたのを憶えています。やはり音楽好きの人間に一枚と限定するのは無理なようです。でも実際は5枚でもかなりきついものがあり、山本さんが「せめて50枚」と書かれていましたが、私も香港赴任前夜に厳選に厳選を重ねた末、これだけは外せないというCDが50枚になってしまい、スーツケースの中のシャツや下着を減らし、CDを詰め込んだ記憶があります。
私は昔、海賊盤を買い漁っていたほどのロック好きだったので、ちょっとマニアックな部分もありますが、私の5枚、行かせていただきます。
1971年発表
タイトル曲は当時のベトナム戦争について歌ったもので、多くの罪のない若者が戦死しなければならない状況について、「いったいどないなっとんねん!」(What's
going on!) とマービンが力みのない声で歌っている。サウンド的には、コンガを前面に押し出したアフリカっぽいリズムを取り入れ、ボーカルの方もリード、各種コーラス共にマービン一人でこなすなど、それまでのモータウンにおけるR&Bのスタイルをことごとくぶち壊している。
彼の作品は男女の愛について歌ったものが多いが、このアルバムではめずらしく、全般にわたって人間愛について歌っており、彼のそのメッセージを伝える姿勢は真剣そのものである。私は何か悪さをして自己嫌悪に陥った時なんかに、このレコードを聴いてよく「心の洗濯」をしたものです。狩猟や獣姦を強いられるであろう(?)無人島では、獲物をゲットする度にこのレコードをかけ、人間性を保つ必要があるかも。
1993年発表
93年にリリースされたPファンクものの未発表ライブCD4枚組。70年代のファンカとパーラのライブが中心ですが、この頃のPファンク軍団の勢いはすごい!みんなスキスキモンキーしてるやんけ!こんなすばらしいライブを90年代まで発表しなかったこと自体、罪だ。うねるようなめちゃファンキーな女性コーラスをバックに従え、我らがジョージ・クリントン隊長は飛び跳ね回っており、もう元気満々で、「こいつ、どこのおっさんやねん!」という感じ。ジミヘンばりのM・ハンプトンのギターも冴え渡り、ソウルのファンキーさとロックのかっこよさがステージ上で見事に融合している。ブーツイ・コリンズの火が消える寸前のロウソクのようなベースも特筆もので、粘っこいグルーヴを生み出している。私は彼らのどのアルバムよりもこのファンキーでパンキーなライブを気に入っている。内袋のライナーノーツに「ジョージは少なくともビルよりはいい大統領になれると思うよ」と書いてあるのには笑える。
無人島ではフルボリュームでこのCDを聴きながら、カラゲンキでもいいから私も飛び跳ね、ソウルフルにシャウトしまくって孤独な日々を乗り切りたい。
1968年発表
ルー・リード率いるヴェルヴェット・アンダーグランド(VU)がNYで活動していたところをアンディ・ウオホールに見出されデビューしたのが、1967年。それからわずか一年後にリリースされたこのレコードがすでに彼らのサードアルバムになる。商業的には失敗し、短期間で解散したVUだが、評論家連中からはかなり高い評価を得ており、ローリングストーン誌が独自に採点した「ロックアルバムベスト100枚」にも、VUの全アルバム4枚中、3枚が入っているほど。またミック・ジャガーは、ストーンズの「ストレイキャット・ブルース」はVUの名曲「ヘロイン」のイントロからパクったことを告白しているし、「ビースト・オブ・バーデン」のコード進行がこれまたVUの「スイート・ジェーン」と全く同じというのは、ファンの間では有名な話。
音楽を愛する人間なら、「これ、俺の求めてた音楽やんけ!ええ?」と思うことは一度や二度ではないはず。私にとってこの一枚はやはりそう思えたレコードでした。何が良かったか、一番の理由はディープな泣けるバラードに出会えたこと。ルー・リードが、まるで歌詞中の一語一語を取り扱い注意の壊れものであるかのように丁寧に歌い上げる「ペイル・ブルー・アイズ」は私にとっての精神安定剤のようなもの。無人島でも欠かせません。こんな繊細な曲を作り、VU解散後もコンスタントにいい曲を作っているルー・リード、信頼に値する男やね。
1970年発表
私はカラオケボックスにはほとんど行かない。それは私が大好きな60年代後半から70年代前半のロックやソウル、ファンクなどの曲がカラオケのソングリストに入ってないからで、自分が敬愛しているアーティストへの感情を無視して、お気楽に「す・し・食いねえ」などと唄えるはずもないから。あっ最近は「カニ食べ行こう」やったかな。(どっちにしても大差ないけど。)それでも人間にはどうも「歌を歌いたい」ということが基本的欲求として存在するようだ。私はその欲求にどう折り合いをつけているかというと、このザ・バンドのような比較的わかりやすいリズムで憶えやすい歌詞のテープを車に持ち込み、一人で運転している時に大声で歌っているのだ。だからこのCDは無人島での私のカラオケ用CDとなりうるもの。歌うという行為は、大昔は異性を引き付けるための一種の性行為やったらしいので、無人島では本能的にこのCDをかける機会も増えそうな気がする。
ザ・バンドは元々ボブ・ディランの門下生だった時代に「ボブ・ディラン アンド
ザ・バンド」として演奏しており、独立後はそのままザ・バンドと名乗るようになったという粋な連中。このアルバムのテーマはアメリカそのものだが、メンバーはレボン・ヘルム以外は全員カナダ人で、アメリカに対する強い憧れを見て取れる。南北戦争で敗北した南部人の恨みつらみを歌った「The
Night They Drove Old Dixie Down」が放つ輝きは、永遠に聴き継がれていくべき名曲だけがもっているもの。
あと69年に録音されたディランとの私的なホームレコーディングを75年にレコード化した「ベースメント・テープス」も絶対に持っておきたいアルバムなので、無人島に移住後、周辺諸島との取り引きで入手したい。
1972年録音
申し訳有りませんが、これは海賊版です。ストーンズマニアである私は彼らのアルバムの中から一枚選ぶとすれば、どうしてもこのブートレッグになってしまいます。ライブの海賊版はオフライン録音とオンライン録音が有り、前者は観客の一人がラジカセなどの録音機材を持ち込み、観客席から直接録ったもので、後者はアーティスト側がサウンドチェックなどの目的でミキサーを通じて録音したテープが何らかの形で外部に流れたものなどです。このWelcome
To NYはオンラインなので、音質は非常に良く、ブート業界では名盤とされているものなので、東京や大阪のその筋のCD店で簡単に入手できるはずです。
さて中身について。72年USツアー中の脂ののりきったストーンズをNYのマジソン・スクエア・ガーデンで録音したものですが、私が今まで聴いたロックアルバムの中でベスト、本当に一番ですね。キース・リチャードの荒々しいリズムギターにミック・テイラーのリードギターが濡れた荒縄のように絡みつきます。そしてミック・ジャガーはその後ろで暴力的に喉をうならせるという、非常にスリリングな展開!
中でも群を抜いているのが、ブルージーなLove In Vain の出来。この曲は正規盤として70年に出ているライブでも聴けますが、この正規盤の方はややアップテンポ気味。テイラーもストーンズ加入直後でキースに遠慮していたのか、申し訳程度にしかソロをとっていません。しかしこのWelcome〜で聴けるLove
In Vain は超スローテンポで演奏されており、テイラーのリードギターがもうビシバシ。ミック・ジャガーの「Cry
On, Baby!」という掛け声で始まる間奏のソロでは、スライド奏法でギターをすすり泣かせたかと思うと、エンディングのソロでは一転、指のボトルネックをはずしてバリバリのブルースフレーズを弾きまくり、むせび泣かせています。
ロックを聴いていく中で、かっこいいギタープレイを見つけるというのは大きな楽しみの一つですが、このテイラーのプレイは私の中ではだんとつの一位ですね。このCDと田中律子の写真集があれば、無人島での生活もそんなに苦にならないのではないかと思っています。ちなみに私の中でのロックギター部門の2位はジョン・メイオールの「ルッキング・バック」に入っているクラプトンの「ストーミー・マンデイ」のソロでしょうか。これもライブですが、まだ名声を得る前のクラプトンが、粗削りながら当時の全テクニックを惜しみなく披露しており、ピックを持つ指には弦が切れそうなくらい気合が入っているのが伝わってきます。
ミック・テイラーは一度88年に大阪のバーボンハウスというライブハウスで観ましたが、その頃はもうぶくぶくに太っており、ろくにソロも弾けない状態でした。彼も自分のキャリアのピーク時の演奏が海賊版であれ、ちゃんと記録されていることを喜んでいるのではないでしょうか。ひょっとしたら彼自身もこのCDを購入し、息子の前で、「お父さんもなあ、昔はすごかったんやぞー」とうそぶいていたりして。
伊藤の感想
マービンゲイは僕もいれようか迷ったほど好きです。もともと彼の話題で意気投合したのが最初でしたよね。ダニーハサウェイともどもブラックシンガーの最良の一人と思います。それにしても「What’s going on」を「いったい、どないなってんねん」と訳したのは凄いです。そうやって聞くとまた違った感じがしてくるのはどうしてでしょうか。それにしても本当にマニアックな5まいでした。
11/17/98 22:24:46更新
音楽部